インテントベース取引とは、ユーザーが直接オンチェーンにブロードキャストするトランザクションではなく、望む結果を記述したオフチェーンメッセージに署名する取引モデルであり、実際のルーティングと実行はオフチェーンで競合するSolverによって決定される。これは通常のDEXスワップとは異なる。通常のスワップではルート、スリッページ設定、プール選択がほぼすべてオンチェーンデータに記録され、段階的に再構築できる。
具体的な流れは次の通りだ。ユーザーがインテントメッセージ(最低許容アウトプット額と期限を含む)に署名する → メッセージは公開のmempoolを経由せずプロトコルのマッチングシステムに送られる → 複数のSolverがそれぞれ異なる場所(DEXプール、CEXのクォート、プライベートインベントリ、クロスチェーンの流動性)からそのインテントを満たす実行方法を調達しようとし、互いに競合してビッドする → 勝利したSolverが最終結果を1つのオンチェーン決済トランザクションにまとめる → 分析者はその決済における最終的な転送結果しか見られず、事前のビッディングプロセス、検討された候補ルート、敗れたSolverの見積もりは一切見えない。CoW Protocolの「意図の偶然の一致」メカニズムは特殊な例で、2人のユーザーのインテントが偶然互いを直接満たせる場合、外部の流動性プールを完全にバイパスしてマッチングできる。
読者にとっての実際的な影響は、オンチェーンデータを使ってインテントベースのプロトコル(またはSolverのビッディングに依存する任意のシステム)の「本当の実行品質」を評価しようとする場合、決済トランザクションだけを見るのでは不十分だということだ。それは最終結果しか教えてくれず、ユーザーがもっと良い価格を得られたかどうか、どれだけ多くの潜在的なマッチングが競争力のあるビッドがなかったために失敗したかは教えてくれない。その深い層を見るには、プロトコルがオフチェーンのマッチングデータ(Solverのビッディング履歴、オークション記録)を公開するかどうかに完全に依存しており、公開されたオンチェーンデータだけでは見えない。
分散型取引所(DEX)での通常のスワップは、再構築可能な記録を残す。ユーザーのウォレットがトランザクションを発行し、特定の流動性プールを選び、スリッページの許容範囲を設定し、定義されたプールのパスを経由して取引が完了する。これらのほぼすべてがトランザクションデータとイベントログに記録されており、オンチェーン分析者は一歩ずつそれを遡ることができる。
インテントベース取引プロトコル、CoW Protocolなどはまったく異なる動作をする。ユーザーはオンチェーンのトランザクションを直接ブロードキャストするのではなく、本質的には「1ETHに対して最低これだけのUSDCを、この期限までに」というオフチェーンメッセージに署名する。このメッセージは公開のmempoolには入らず、プロトコルのマッチングシステムに提出される。実際の実行は競合する「Solver」の集団が担い、各々がそのインテントに対して最良の実行をDEX、CEX、プライベートな流動性インベントリ、クロスチェーンの流動性など様々な場所から探そうとし、マッチングに勝ったSolverが最終結果を1つのオンチェーン決済トランザクションにまとめる。2026年半ばまでにCoW Protocolの累計処理量は800億ドルを超え、無視できない規模に達しているが、その数字の裏にある実行の複雑さはほぼすべてオフチェーンで発生している。
CoW Swapの決済トランザクションを開くと、分析者は最終的に送受金されたトークンの量、決済コントラクト自体(アトミックなスワップを強制執行する)、それを実行したSolverの身元(通常は匿名または半匿名のアドレスで運用される)、そしてその決済にかかったガスコストを確認できる。これは「結果層」の情報であり、実在し検証可能だ。
見えない部分も同様に明確だ。ユーザーが元々インテントメッセージに署名した際に設定した実際の最低許容アウトプット額(オンチェーンでは最終的な実行価格しか見えず、ユーザーが元々許容していた下限は見えない)。Solverがそのインテントを満たすために流動性をどこから調達したか——複数のDEXプール、中央集権型取引所のクォート、あるいはSolver自身のインベントリが混在している可能性がある。このマッチングが「意図の偶然の一致」(coincidence of wants、例えばAliceが1ETHをUSDCに売りたく、Bobがちょうど逆の取引をしたい場合に双方を直接マッチングする)によるものか、オランダ式オークションによるものか、何らかのバッチ決済最適化によるものか——このマッチング機構の選択プロセスはオンチェーンデータには一切記録されない。マッチング前にそのインテントに実際何人のSolverがビッドし、それぞれどんな見積もりを出したか——このビッディングの全履歴もオンチェーンには一切痕跡を残さない。そして最後に、勝利したSolverが実際に獲得したスプレッド利益——市場から調達した実際の価格とユーザーが受け取った価格の差——も同様に不透明だ。
CoW Protocolの中核メカニズムを例に取ると、Aliceが1ETHをUSDCに売りたく、同時にBobがちょうど1ETHをUSDCで買いたい場合、プロトコルは外部の流動性プールを経由せずに両者のインテントを直接マッチングできる。これはスリッページもMEVへのエクスポージャーも発生しないことを意味する。しかしオンチェーンで観察できるのは、同一トランザクション内でアトミックに決済される2つのトークン転送だけだ。「これは意図の偶然の一致によるマッチングだった」という事実は、プロトコル自身が開示しない限り、オンチェーンデータだけから逆算することはほぼ不可能だ。
この構造的な不透明性は欠陥ではなく、インテントベース取引そのものが解決しようとしている問題の副産物だ。プロトコルは「最良の実行価格を見つける」という複雑なタスクをユーザーの手とオンチェーンの競争から引き出し、その代わりにより良い実行とMEV保護を提供する。しかしその代償として、分析者が市場行動を再構築するために通常依存しているオンチェーンの足跡の大部分がオフチェーンに移動してしまう。研究者にとって、これはインテントベースプロトコルの取引量と市場シェアを評価する際、見えるのは「成功裏に決済されたインテントの数」だけであり、「失敗したビッドの数」や「実際の実行品質が理論上の最適値からどれだけ離れていたか」は見えないことを意味する。その評価層は、プロトコルが開示することを選んだオフチェーンデータに完全に依存する。